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大分地方裁判所 昭和62年(行ウ)1号 判決

大分県豊後高田市大字玉津一〇五五番地の二

原告

松江貞信

右訴訟代理人弁護士

内田健

右訴訟復代理人弁護士

麻生昭一

大分県宇佐市大字上田一〇四六番地の三

被告

宇佐税務署長 平山康雄

右指定代理人

菊川秀子

白濱孝英

犬塚孝

安森和義

桑野順一

原尻真二

小松弘機

松永誠

徳田実生

福田道博

河野通法

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の請求

被告が原告の昭和五三年分の所得税について昭和五七年二月九日付でした更正及び重加算税賦課決定をいずれも取消す。

第二事案の概要

本件は、原告が昭和五三年分の所得税の確定申告をしたところ、被告から、分離短期譲渡所得を申告しなかったとして、更正及び重加算税賦課決定を受けたため、これらの取消を求めて提訴した事案である。

一  争いのない事実

1  本件課税処分の経緯

原告の昭和五三年分の所得税の確定申告、これに対する更正及び重加算税賦課決定、並びに不服申立等の経緯は、別表1記載のとおりである(以下、同表番号2記載の更正及び重加算税賦課決定をそれぞれ「本件更正」、「本件決定」という。)。

2  原告に対する課税根拠のうち、争いのない部分

被告主張の本件更正の課税根拠は別表2の被告主張額欄記載のとおりであるところ、分離短期譲渡所得金額、配当控除額及び各税額(総所得金額に対する税額、源泉徴収額を除く。)が争いとなっており、その余の総所得金額、所得控除金額、総所得金額に対する税額及び源泉徴収税額については、原告もこれを争わない。

二、本件の争点

本件の主要な争点は、原告の分離短期譲渡所得金額、すなわち、被告主張の譲渡所得の帰属及び譲渡所得金額、及び本件決定の適法性であり、これに付随して配当控除額及び各税額(総所得金額に対する税額、源泉徴収税額を除く。)も争点となっている。

右各争点の具体的な内容は、次のとおりである。

1  譲渡所得の帰属

〔被告の主張〕

(一) 原告の土地の取得

(1) カワノ工業株式会社(以下「カワノ工業」という。)は、昭和四七年六月頃別表3番号1ないし14記載の土地一四筆(以下「本件一四筆の土地」といい、同表記載の各土地を「本件1の土地」のようにいう。)の実質的な所有権を取得し、既に船倉日出美(以下「日出美」という。)名義で所有権移転登記がされていた本件1の土地を除くその余の土地について、同年六月一三日から同月一六日までの間に日出美名義で所有権移転登記を経由した。(争いがない。)

(2) 原告は、同五二年七月一日頃カワノ工業から、右土地を代金合計一九〇七万六四五七円で買受けて、実質的な所有権を取得した。なお、原告は、右売買契約に当たり、日出美ら七名の名義を借用のうえ、その頃カワノ工業との間において、別表4A番号1ないし7記載の日出美ら七名が本件一四筆の土地を同表記載のとおり代金合計一九〇七万六四五七円で買受ける旨の同年七月一日付土地売買契約書を作成した。(その頃日出美ら七名とカワノ工業の名義で右の売買契約書が作成されたことは争いがない。)

原告は、同年九月九日右土地のうち本件4ないし14の土地一一筆について別表3記載のとおり船倉基弘ら六名の名義で所有権移転登記を経由した。(同日本件4ないし14の土地一一筆について同表記載のとおり船倉基弘ら六名の名義で所有権移転登記がされたことは争いがない。)

(二) 譲渡所得の発生

原告は、同五三年五月一五日豊後高田市土地開発公社(以下「公社」という。)に対し、別表4A番号1ないし4記載の日出美ら四名の名義で本件1ないし10記載の土地一〇筆(以下「本件一〇筆の土地」という。)を同表記載のとおり代金合計七八六二万二〇〇〇円で売渡し、同月一九日右代金を受領した。(同月一五日公社に対し本件一〇筆の土地が右代金で売渡され、公社から同月一九日右代金が支払われたことは争いがない。)

〔原告の主張〕

(一) カワノ工業又は同社の代表取締役である河野新一(以下「河野」という。)は、本件一四筆の土地が豊後高田市(以下「市」という。)の公共下水道終末処理場用地として市に売渡す見込みが生じたことから、その譲渡所得税を脱税するため、本件一四筆の土地を同社又は河野の簿外資産とすることを企てた。カワノ工業又は河野は、そのために、被告主張の日出美ら七名とカワノ工業との間の昭和五二年七月一日付土地売買契約書を作成し、本件一四筆の土地の売買を仮装した。カワノ工業の土地台帳には、本件一四筆の土地がその取得価格一二八三万七二四〇円として計上されていたところ、同社では経理担当者が管理費用等を計算したうえ、取得価格と管理費用等を合計した原価にすぎない一九〇七万六四五七円を売買代金とした。そして、税務調査に備えて、同年九月二七日右代金相当額をわざわざ銀行振込の方法によって同社に支払ったようにして、同金額を入金処理し、同社の公表上の資産であった本件一四筆の土地を簿外資産とした。

(二) カワノ工業又は河野は、同五三年五月一五日公社に対し、日出美ら四名の名義で本件一〇筆の土地を代金合計七八六二万二〇〇〇円で売渡し、同月一九日右代金を受領した。

(三) 河野は、市の終末処理場用地として売渡されなかった本件11ないし14の土地四筆(以下「本件四筆の土地」という。)について、同六二年三月一六日高田武夫に対し本件11、12の土地を代金九五六万五四〇〇円で売渡し、同月一四日早田藤夫に対し本件13、14の土地を代金一五四七万円で売渡した。もちろん、原告は、本件四筆の土地の売買には一切関与していない。

(四) 原告は、その当時、河野が代表取締役で大株主であった山大コンクリート工業」という。)の役員であったため、河野から依頼され、日出美ら七名の名義の借用、前記仮装の土地売買契約書の作成、売買代金をカワノ工業に送金するための大分県信用組合からの二一〇〇万円の借入手続、公社に対する土地売却の手続及び売却代金の保管等に関与したが、これらは全てカワノ工業の代理人ないし仲介人としての立場で行ったものである。

2  譲渡所得金額

〔被告の主張〕

(一) 譲渡収入金額 七八六二万二〇〇〇円

譲渡収入金額は、原告が公社との間の前記売買契約に基づき、昭和五三年五月一九日公社から日出美ら四名の名義で受領した本件一〇筆の土地の代金合計七八六二万二〇〇〇円である(内訳は別表4A番号1ないし4記載のとおりである。)。

(二) 取得費 九八八万〇一四二円

取得費は、原告がカワノ工業との間の前記売買契約に基づき、カワノ工業に対し支払った本件一〇筆の土地の代金合計九八八万〇一四二円である(内訳は同表番号1ないし4記載のとおりである。)。

(三) 必要経費 六三万三六六五円

必要経費は、原告がカワノ工業との間の前記売買契約に基づき、カワノ工業に対する本件一四筆の土地の代金合計一九〇七万六四五七円の支払のため、早田晴次名義で大分県信用組合高田支店から借入れた二一〇〇万円にかかる支払利息のうち、本件一〇筆の土地の代金に対応する支払利息六三万三六六五円である(計算は別表4B記載のとおりである。)。

(四) 租税特別措置法の特別控除の有無等

租税特別措置法(昭和五五年法律第九号による改正前のもの。以下「法」という。)三三条の四項第一項二号に規定する三〇〇〇万円の特別控除は、同条四項により確定申告書に一項の適用を受ける旨の記載をし、かつ買取り等の申出書類等関係書類を添付して申告した場合に限って適用されるものであるところ、原告が提出した確定申告書は右要件を欠いているので、右特別控除の適用はないこととなる。

また、原告は、本件一〇筆の土地を昭和五二年七月一日に取得し、同五三年五月一五日に売買したから本件一〇筆の土地の譲渡所得にかかる税額の計算においては、法三二条(短期譲渡所得の課税の特例)一項の規定が適用され、同条三項に規定する軽減税率は、本件土地の譲渡が法施行規則(昭和五四年大蔵省令第一八号による改正前のもの。以下「規則」という。)一三条の二第四項の規定により準用される規則一一条一項の規定をも充足していないため、適用がない。

(五) 譲渡所得の金額 六八一〇万八一九三円

本件一〇筆の土地の譲渡所得の金額は、(一)の譲渡収入金額七八六三万二〇〇〇円から、(二)の取得費九八八万〇一四二円及び(三)の必要経費六三万三六六五円を控除した残額六八一〇万八一九三円である。

3  原告の所得税額

〔被告の主張〕

分離短期譲渡所得金額にかかる税額計算過程は別表5の被告主張額欄記載のとおりであり、所得税額の計算過程は別表2の被告主張額欄記載のとおりである。

4  本件決定

〔被告の主張〕

(一) 原告は、本件一〇筆の土地の譲渡所得が原告に帰属するにもかかわらず、名義上の売主又はカワノ工業に帰属するかの如く仮装して、その申告をしなかったから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づき確定申告をしたものである。

(二) 右の隠ぺい又は仮装行為に基づく重加算税は、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。)六八条一項の規定に基づいて計算すると、本件更正にかかる増差税額四五〇四万円に一〇〇分の三〇を乗じた一三五一万二〇〇〇円である。

第三争点に対する判断

一  譲渡所得の帰属について

1  市の終末処理場用地の選定等

証拠(甲一ないし一六、甲三四ないし三六、甲六五、甲六六の一ないし五、甲六七、六八、甲七〇ないし七二、乙一、乙五〇、乙一二九の一、二、乙一三〇、一三一、乙一五三、原告本人(後記信用しない部分を除く。))によれば、次の事実が認められる。

(一) 市は、昭和五一年に公共下水道事業基本計画を策定し、設計業者に豊後高田市大字呉崎地区に終末処理場を建設することで設計を委託し、その後大分県、建設省との間において基本計画の検討を開始した。市は、同年九月頃には、終末処理場用地として、同市大字呉崎字南桂地区にある日出美所有名義の本件一〇筆の土地及び大分県開拓農業協同組合(同四七年三月三一日西國東干拓地農業協同組合を合併)所有の本件15、16の土地を予定した。

(二) 市議会においては、建設水道委員会が同年一〇月先進地の終末処理施設を視察し、同月八日には建設水道委員会研究会を開催し、執行部から提案のあった右予定地について説明を受けた。市議会は、同年一〇月一三日全員協議会を開催し、同様に執行部から提案のあった右予定地について説明を受け、豊後高田市公共下水道事業推進特別委員会(以下「特別委員会」という。)を設置することにした。同市議会は、同月一六日開催の第四回臨時会において、委員一〇名をもって構成する特別委員会の設置を決定し、その委員に森若静夫、原告ら一〇名を選出し、同日開催された第一回特別委員会において森若静夫が同委員会委員長に互選された。特別委員会は、市執行部からの再三の要請もあって、同月二五日開催の第三回特別委員会において、終末処理場を右予定地に建設することを決定した。

(三) その後、市執行部は、同年一一月から翌五二年一月にかけて、地元説明会、地元住民の先進地視察等を実施したところ、地元住民は、地元道路整備等の条件さえ整えば終末処理場建設に異議はないとの意見が大勢であった。

(四) 市は、公共下水道事業について、同五一年一二月一四日都市計画法に基づく告示をしたうえ、同五二年一月八日付で建設大臣に対し下水道事業計画の認可申請をし、同年二月一八日同大臣からその認可を受け、また、同月一九日大分県知事に対し都市計画法に基づく下水道事業認可申請をし、同年三月一日同知事からその認可を受けた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照してにわかに信用することができず、外に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  市ないし公社との売却交渉及び売買契約の締結等

証拠(甲一ないし一六、甲三四ないし三六、甲六八、六九、甲七二、甲七三の一、二、甲七四の一ないし三、甲七五ないし七七、甲七八の一、二、甲七九、甲八〇の一ないし三、甲八一の一、二、乙一、二、乙五、乙八、乙二二、乙二四、乙二七、二八、乙三四、乙四〇ないし五一、乙五五、乙八〇の一ないし六、乙八一の一ないし三、乙八二の一ないし四、乙八四の一、二、乙八五の一ないし五、乙一二九の一、二、乙一三〇、一三一、乙一三八ないし一四〇、乙一五三、原告本人(後記信用しない部分を除く。))によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件一〇筆の土地の所有名義人である日出美の代理人と称し、前記特別委員会委員長である森若静夫に助力を依頼したうえ、昭和五二年初頃から佐々木徳義市長(以下「市長」という。)と本件一〇筆の土地の売却交渉を行った。市は、同年一月株式会社大分不動産鑑定所に対し本件一〇筆の土地及び本件15、16の土地について鑑定を依頼し、一平方メートル当たり三八〇〇円(一坪当たりでは約一万二五四〇円)である旨の内報を得た。原告と市長との交渉の結果、同年六月には本件一〇筆の土地の買収価格が一坪当たり一万二五〇〇円にほぼ決定された。なお、市長は、同月六日開催の特別委員会において、売値一坪当たり一万五〇〇〇円、買値一坪当たり一万円で交渉中であり、その中間の一坪当たり一万二五〇〇円で買収したい旨の答弁をした。

(二) 市長は、同月二四日公社に対し、終末処理場用地として、日出美所有名義の本件一〇筆の土地及び大分県開拓農業協同組合所有の本件15、16の土地、合計二万三六〇七平方メートルを一平方メートル当たり三八〇〇円で先行取得することを依頼した。公社は、日出美所有名義の本件一〇筆の土地については買収価格も決まっているとのことであったので、特に買収交渉等をしなかった。市長は、日出美所有名義の本件一〇筆の土地のうち本件4ないし10の土地七筆が同年九月九日別表3記載の者に所有権移転登記がされたため、同年一〇月一五日公社に対し用地取得の変更依頼をした。

(三) 原告は、同年一〇、一一月頃公社の職員が所有名義人である船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆に表敬訪問に行くこととを知り、右三名に対し公社からの買収交渉を一任している旨述べるように依頼した。公社の職員は、堀江義勝及び岡本隆を表敬訪問したが、両名は、公社の職員に対し原告に依頼されたとおり原告に買収交渉を一任している旨述べた。

(四) 公社は、大分県開拓農業協同組合所有の土地について、同年一一月頃から翌五三年三月頃までの間に、地元住民との間において条件整備の問題と並行して買収交渉を行ったが、約四億円にものぼる地元の道路回収等の整備事業をするとの条件のもとに、同年三月買収交渉がほぼまとまった。公社は、翌四月一二日同組合との間において右二筆の土地の売買契約を締結し、同日及び同月一八日の両日に同組合に対し代金合計一一〇八万四六〇〇円を支払った。

(五) 公社は、同年五月一五日、原告の立会いのもとに、本人兼日出美(結婚により姓が大賀に変更)の代理人である船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆との間において、それぞれ本件一〇筆の土地を別表4A記載の各代金(代金合計七八六二万二〇〇〇円)で売渡す旨の売買契約を締結した。公社は、右四名の代理人と称する原告から、事前に代金は現金で一括して支払って欲しいとの要望があったため、同月一九日原告の立会のもとに、本人兼日出美の代理人である船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆に対し右各代金を支払った。船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆は、即日市役所玄関前において原告に対し右各代金を交付した(同月一五日公社に対し本件一〇筆の土地が右代金で売渡され、公社から同月一九日右代金が支払われたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。)。そして、同日本件一〇筆の土地について市に対し同年三月二八日売買を原因とする所有権移転登記手続がされた(もっとも、同年一〇月二八日錯誤を原因としていったん抹消登記手続がされ、最終的に同五四年一一月二〇日に同月一九日付売買を原因とする所有権移転登記手続がされた。)。

(六) なお、市は、同五二年当時、第三次処理施設の建設計画を有していなかったが、原告は、同年三月頃市に対し、本件一〇筆の土地を売渡す条件として、農業振興地域内にある本件四筆の土地を、第三次処理施設用地として本件一〇筆の土地と同一単価で買収することを要求し、大分県にも働きかけたうえ、同年五月一五日市長との間において、同五三年度に本件四筆の土地を第三次処理施設用地として本件一〇筆の土地と同一単価である一平方メートル当たり三八〇〇円で買収する旨の合意をし、本件四筆の土地の所有名義人である早田晴次、波多續及び東本道彦に対し市長がその旨約した同日付覚書の交付を受けた。そして、原告は、本件四筆の土地の買収を実現すべく、その後も同年九月の第三回定例市議会において終末処理場用地取得について疑惑があると追及される頃まで、市及び大分県に対し本件四筆の土地の農業振興地域指定解除のための働きかけをした。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  名義貸の交渉、金融機関からの借入及び売却代金の使途・保管方法等

証拠(甲一ないし一四、甲二九の一ないし九、甲三四ないし三六、甲八一の一、二、乙一ないし三四、乙三七ないし四〇、乙五二ないし五八、乙六八の一ないし一四、乙六九の一ないし一〇、乙七〇の一ないし七、乙七一の一ないし七、乙七二の一、二、乙七三の一ないし一三、乙七四、七五の各一、二、乙七六の一ないし三、乙七七の一ないし七、乙七八の一、二、乙八六の一ないし三、乙八七、八八の各一ないし四、乙八九の一ないし九、乙九〇の一ないし四、乙九一の一ないし五、乙九二、乙九四の一ないし三、乙九五の一ないし五、九六の一ないし三、乙九七の一ないし一三、乙九八の一ないし五、乙九九の一ないし八、乙一〇〇の一ないし三、乙一三一、一三二、乙一三八ないし一四三、乙一五三、証人早田晴次(後記信用しない部分を除く。)、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五二年春頃から同年七月初頃にかけて、日出美の所有名義である本件1ないし3の土地を除く、本件4ないし14の土地について、船倉基弘、堀江義勝、岡本隆、早田晴次、波多續及び東本道彦の六名に対しそれぞれ名義貸を依頼し、右六名の了解を得た。原告は、右六名に名義貸を依頼する際、右六名に対し自己が本件一四筆の土地を買受けるとの趣旨の説明をした。

(二) 原告は、同年八月行政書士本城甲に依頼し、豊後高田市農業委員会に対し本件4ないし14の土地について日出美から船倉基弘ら六名の各名義人に対する所有権移転につき農地法三条の許可申請手続をし、同年九月七日その許可を得た。原告は、その頃本庄甲を通じ弁護士近藤新に依頼し、右土地について日出美から別表3記載のとおり舩倉基弘ら六名の名義人に対する所有権移転登記手続を、同月九日に同月八日付売買を原因とする所有権移転登記手続がされた(同日右土地について右の所有権移転登記がされたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。)。右各名義人は、いずれも原告又はその意を受けた早田晴次に依頼されるままに、これらの申請手続に必要な書類に押印するなどしたにすぎず、名義人自身が行政書士等に依頼してこれらの申請手続きを行ったことはない。

(三) 原告は、カワノ工業に対する売買代金一九〇七万六四五七円の支払に充てるため、同月中旬早田晴次に対し同人名義で大分県信用組合高田支店から二一〇〇万円を借入れるように依頼した。早田晴次は、当初難色を示したものの、本件一四筆の土地を担保に入れ、他の所有名義人を連帯保証人とすることで原告の右依頼を承諾した。早田晴次は、その頃同支店に二一〇〇万円の借入申込の打診をし、原告は、その際同支店の吉野一彦支店長に対し、本件一四筆の土地は終末処理場用地として公社に買収される予定となっているなどと述べ、右借入金の返済は確実であることを説明した。早田晴次は、右借入の手続をしたが、その際、自己の預金口座と区別するため、右借入用に、「早田せいじ」名義の普通預金口座を開設した。早田は、同月二二日同支店から二一〇〇万円の貸付を受け、右借入金は「早田せいじ」名義の普通預金口座に入金された。原告は、同月二六日右普通預金口座から一九〇七万六四五七円を払戻したうえ、日出美名義で株式会社広島銀行柳井支店のカワノ工業の預金口座に送金依頼の手続をし、カワノ工業の預金口座に右金員が送金された。なお、右普通預金口座から、前記所有権移転登記手続の際の登記手続費用などの諸経費や右借入金の利息の支払もされていた。原告は、右普通預金口座の預金残高が利息支払額に満たない場合は、右普通預金口座に入金して振替払をしていた(右借入金に対する同五三年六月五日までの利息の支払は別表4C記載のとおり合計一三三万九一〇八円である。)。右のように、同支店からの二一〇〇万円の借入は実質的に原告の借入であり、同支店の右普通預金口座は実質的に原告の預金口座であった。

(四) 原告は、日出美、船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆の四名と公社との間に本件一〇筆の土地の売買契約が締結された同五三年五月一五日、豊後高田市内の旅館において船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆の三名に対し、名義貸の謝礼として酒食のもてなしをし、その後妻の実家において船倉基弘、堀江義勝、岡本隆、早田晴次、波多續及び東本道彦の六名に対し、名義貸の謝礼として酒食のもてなしをした。また、原告は、同五二年一二月頃から同五三年六月頃までの間にかけて、名義貸の謝礼として、舩倉基弘に対し現金六〇万円、堀江義勝及び岡本隆に対し現金各二五万円、早田晴次、波多續及び東本道彦に対し現金各二〇万円を渡した。原告は、これら名義貸の謝礼は全て自己において出捐し、また、所有名義人に賦課された固定資産税その他の税金も自己において出捐した。

(五) 原告は、前記2認定のとおり、同五三年五月一九日船倉基弘らから本件一〇筆の土地の売買代金合計七八六二万二〇〇〇円を受領した。原告は、同日大分県信用組合高田支店の赤峰弘治支店長を自宅に呼び、借入金二一〇〇万円の一部弁済として一〇八七万六三九〇円を交付し、前記「早田せいじ」名義の普通預金口座に入金を依頼した。原告は、そのほか、日出美名義で三〇〇万円及び一七〇〇万円をそれぞれ一年の定期預金に、八万四六五八円を普通預金に、船倉基弘名義で三〇〇万円及び一六〇〇万円をそれぞれ一年の定期預金に、四七万八九〇九円を普通預金に、岡本隆名義で六一〇三円を普通預金に九一九万円を通知預金にぞれぞれ預金するように依頼してこれを交付し、同日それぞれ預金された。原告は、これより先、野村証券株式会社大分支店に堀江義勝名義で国債三〇〇万円、リットー三〇〇万円、ワリコウ七三二万円の、岡本隆名義で国債三〇〇万円、リットー三〇〇万円の申込をし、同月一九日自宅に赴いた同支店係員に対しその代金として一八九八万〇二九二円を支払った。そして、原告は、同月二二日岡本隆名義の前記通知預金を解約し、元利金九一九万〇六〇四円を大分県信用組合高田支店の普通預金口座に入金したうえ、同日同預金口座から五一九万六一〇三円の払戻を受け、同日株式会社大分銀行高田支店に同人名義で二八〇万円及び二二〇万円をそれぞれ一年の定期預金に、一九万六一〇三円を普通預金にそれぞれ預金した。また、原告は、これより先、野村証券株式会社大分支店に岡本隆名義でワリチョウ四一七万円の申込みをしていたが、翌二三日大分県信用組合高田支店の普通預金口座から残りの元利金四〇〇万〇六〇四円の払戻を受け、三九九万六九四五円をその代金として振込送金した。原告は、これら売買代金の使途については本件一〇筆の土地の売主名義人である日出美、船倉基弘、堀江義勝及び岡本隆になんら相談することなく、その名義を利用して預金するなどしたものである。

(六) 原告は、前記2認定のとおり、同年九月の第三回定例市議会において、終末処理場用地取得について疑惑があると追及されたため、預金証書や有価証券の預り証、本件四筆の土地の権利証等の関係書類を船倉基弘ら各名義に預け、保管を依頼した。また、原告は、同年一〇、一一月頃になって、日出美ら七名とカワノ工業の名義で作成された前記同五二年七月一日付土地売買契約書に日出美ら七名の署名押印又は記名押印を得て、右土地売買契約書(甲第四六号証の一一、第五九号証の八)を完成させた。

4  原告とカワノ工業側との交渉の経緯

証拠(甲三〇ないし三八、甲四〇、四一、甲四三、甲四六の二、五ないし一四、甲五六の三、甲五九の一ないし一一、乙一、乙三六、乙五九、乙六一、乙六三ないし六七、乙一〇五、一〇六、乙一三〇ないし一三三、乙一四四ないし一五〇、乙一五三ないし一五六、証人河野、同海磯博理、原告本人(後記信用しない部分を除く。))によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五一年当時、山大コンクリート工業の常務取締役であった。山大コンクリート工業は、山口県柳井市のカワノ工業の本社事務所内にその本社事務所を置き、河野が大株主で代表取締役であった。原告は、そのため毎月山大コンクリート工業の本社事務所、すなわちカワノ工業の本社事務所を訪れていた。

(二) 原告は、前記1認定のとおり、同年一〇月一三日開催された市議会の全員協議会において、市の執行部から終末処理場の建設予定地について説明を受け、日出美所有名義の本件一〇筆の土地が終末処理場の建設予定地となったことを知った。原告は、同年一一月頃及び同年一二月頃カワノ工業の経理担当者であった海磯博理の紹介で公認会計士廣田泰久の事務所を訪れ、廣田泰久に対し、数人が公共事業のため市に土地を売却した場合に三〇〇〇万円の特別控除は各人にあるか、一団地の土地を二年に分けて売却した場合に年毎に特別控除があるのかなどを質問した。

(三) 原告は、同五二年の初頃カワノ工業代表取締役である河野に対し、本件一四筆の土地が市の終末処理場用地として買収される話があると述べ、一反当たり一五〇万円ないし二〇〇万円(本件一四筆の土地全体では合計約六〇〇〇万円ないし約八〇〇〇万円)が相場であるとの説明をした。河野は、原告の説明を聞き、本件一四筆の土地を市の終末処理場用地として売却することに同意した。原告と河野は、その際本件一四筆の土地の所有名義が日出美一名であり、三〇〇〇万円の特別控除があっても税金が多額にの、ぼることから、本件一四筆の土地の所有名義を数人にすることなどを打ち合わせた。

(四) 原告は、同年七月一日頃カワノ工業を訪れ、河野に対し、本件一四筆の土地が市の終末処理場用地として買収されることがほぼ決まった旨報告した。原告と河野は、本件一四筆の土地を市の終末処理場用地として売却することに備えて、同日頃、カワノ工業が別表4A番号1ないし7記載の日出美ら七名に対し本件一四筆の土地を同表記載のとおり代金合計一九〇七万六四五七円で売り渡す旨の同年七月一日付土地売買契約書(甲第四六号証の一一、第五九号証の八)を作成した(その頃日出美ら七名とカワノ工業の名義で右の売買契約書が作成されたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。)。右土地売買契約書の代金額は、カワノ工業が本件一四筆の土地の取得代金一二八三万七二四〇円に、右金員に対する取得時の昭和四七年六月一七日から代金支払期日の同五二年九月三〇日までの年八・二五パーセントの割合による利息相当額、及び取得時から代金支払期日までの土地改良費・草刈費・税金・排水路の溝さらい費用を加えて算出したものであり、カワノ工業が同四七年六月頃本件一四筆の土地の実質的な所有権を取得した際、河野が個人として約九〇〇万円を支出したが、その分は右代金額に含まれていない。原告と河野は、その際に、カワノ工業が日出美に対し五年以内に本件一四筆の土地に進出しないときは右土地を日出美又は同人が指定する者に譲渡する旨の同四七年六月一七日付念書(甲第四六号証の一二、第五九号証の四)を、日付を遡らせて作成した。

(五) 本件一四筆の土地の権利証は、その際に、カワノ工業から原告に渡され、また、右土地売買契約書作成前は、当時の所有名義人である日出美に賦課された固定資産税、土地改良区の負担金、草刈の費用等は、原告が船倉基弘の請求により同人に支払ったうえ、カワノ工業に対しその支払いを請求していたが、右土地売買契約書作成以降は原告が所有名義人の請求により同人らに支払い、原告はカワノ工業に対しその支払請求したことはなかった。そして、前記3認定のとおり、原告は、同五二年九月二二日早田晴次名義で大分県信用組合高田支店から二一〇〇万円を借入れ、同月二六日日出美名義で売買代金一九〇七万六四五七円を株式会社広島銀行柳井支店のカワノ工業の預金口座に送金依頼の手続をし、カワノ工業は同月二七日入金処理をした。なお、原告は、大分県信用組合高田支店から右借入を行うことについて、カワノ工業側と相談したことはなく、自己の判断でこれを行った。

(六) 前記2認定のとおり、原告は、本件一〇筆の土地の所有名義人である日出美の代理人と称して、市長と本件一〇筆の土地の売却交渉を行い、同五二年六月にはその買収価格が坪当たり一万二五〇〇円にほぼ決定されていたところ、同五三年三月には公社と大分県開拓農業協同組合との買収交渉がほぼまとまり、本件一〇筆の土地についても公社との間において売買契約締結の運びとなったが、原告はこれらの売却交渉の経緯、買収価格の決定や売買契約の締結の日程等をカワノ工業側に報告しなかった。また、終末処理場用地の買収予定地は本件一〇筆の土地であり、本件四筆の土地は買収予定地に含まれておらず、同五三年度に第三次処理施設用地として本件一〇筆の土地と同一単価で買収する旨の市長の覚書が作成されたが、原告がこれをカワノ工業側に伝えた形跡はない。そして、原告は、船倉基弘らから受領した本件一〇筆の土地の売買代金を、その一部を前記借入金の一部の支払に充てたほか、国債、有価証券及び定期預金として保管したが、これについてカワノ工業側と相談したことはなく、自己の判断でこれを行った。

(七) 原告は、同五三年六月以降にカワノ工業の専務取締役である河野通晴に対し、土地が公社に対し約六〇〇〇万円で売却になり、カワノ工業には二〇〇〇万円を持ってくる等と報告したが、売却になった土地の範囲や売却代金の使途・保管方法等についての詳細は報告しなかった。そして、河野通晴は、同五四年三月頃原告に対し、右の売却代金はいつカワノ工業に持ってくるかと述べ、右の売却代金の支払を催促した。

(八) 原告は、同五五年一月二〇日贈賄容疑により逮捕され、贈賄、公正証書原本不実記載、同行使、所得税法違反容疑で捜査を受け、贈賄、公正証書原本不実記載、同行使罪により起訴されたが、同年四月二六日保釈が許可された。原告は、同年五月六日カワノ工業を訪れ、河野と協議した。原告は、その際、河野に対し本件一四筆の土地が実質的に河野の所有であり、所有であったと述べたうえ、どのような前後策を高じるつもりかなどと尋ねたが、河野は、原告の言を肯定も否定もせず、本件一四筆の土地の所有関係には触れずに、河野が個人で支出した約九〇〇万円につき金員又は本件四筆の土地で回収した場合の税金関係についての問題点等を指摘したうえ、本件一〇筆の土地の売却代金につき原告が修正申告するのとカワノ工業ないし河野が修正申告するのとどちらが有利か、本件四筆の土地をカワノ工業ないし河野が保全する方法等について協議し、本件一〇筆の土地の売却代金の税金問題及び本件四筆の土地の保全問題についての対策を検討することにした。河野は、その際、自己ないしカワノ工業でも本件一〇筆の土地の売却代金の税金問題につい検討することとしたが、公認会計士廣田泰久に相談した結果、修正申告はしないこととし、同月八日河野通晴が原告に対し電話でその旨を伝えた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠及び証拠(乙四九)に照らしてにわかに信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

5  本件四筆の土地の売買

証拠(甲一一ないし一四、甲一七、甲一八、一九の各一ないし三、甲二〇、甲二一、二二の各一、二、甲二三ないし二五、甲二六の一、二、甲二七、二八、甲二九の一ないし一〇、乙一一三の一、二、乙一二二、証人早田晴次(後記信用しない部分を除く。)、同早田藤夫、同河野)によれば、次の事実が認められる。

(一) 早田晴次は、本件四筆の土地を他に売却しようと考え、昭和六一年八月二六日頃カワノ工業に河野を訪問した。早田晴次は、河野に対し、早田晴次を代理人と定め本件四筆の土地の処分について一切の権限を委任するとの趣旨を記載した委任状の用紙を示し、河野の印があると右土地を売却し易いと述べ、委任状用紙に署名押印するように依頼した。河野は、早田晴次に依頼されるままに、委任状用紙に署名押印して同月二六日付委任状(甲第一七号証)を作成し、これを早田晴次に交付した。

(二) 早田晴次は、河野の代理人として、同六二年三月一四日頃自己の弟である早田藤夫に対し本件13、14の土地を代金一、五四七万円で売渡し、同年六月一五日及び二三日右各土地についてそれぞれ所有権移転登記手続をした。また、早田晴次は、同じく河野の代理人として、同年三月一六日頃早田藤夫に対し本件11、12の土地を代金九五六万五四〇〇円で売渡し、同年六月二三日右各土地について高田武夫名義に所有権移転登記手続をした。そして、早田藤夫は、その頃川原康明に対し本件四筆の土地を代金三八〇〇万円で売渡した。

(三) 早田晴次は、同年六月二七日頃カワノ工業に河野を訪問し、河野に対し、本件四筆の土地が二、四七〇万円で売却できた旨報告した。早田晴次は、河野に対し、河野が支払うべきものとして、大分県信用組合に支払う借入金の元利金、原告らの利息の立替分、早田晴次ら三名の所有名義人に対する弁護料・罰金・慰藉料、仲介人に対する謝礼等、合計額二二七〇万円を記載した清算確認書の用紙を示し、その記載内容及び売却代金と右金額との差額二〇〇万円を支払う旨を説明したうえ、清算確認書の用紙に署名押印するように要請した。河野は、早田晴つぎに依頼されるままに、清算確認書の用紙に右金額を支払うことを確認するとの趣旨を記載し、署名押印して同月二四日付清算確認書(甲第二〇号証)を作成した。河野は早田晴次に同道した大分県信用組合高田支店の職員から勧められるままに、右差額二〇〇万円を同支店に、定期預金した。その後、河野は、早田晴次から同人ら三名の所有名義人が負担していた固定資産税の支払を請求され、同人に対しこれを送金して支払った。

(四) なお、河野は、委任状作成の際もそれ以降も、早田晴次に対し、本件四筆の土地の売却時期や売却価格等の指示をしていないし、売却交渉の経緯等の報告も受けていない。また、河野は、本件四筆の土地を自己が売却したとの認識は全くなく、右差額二〇〇万円について早田晴次から贈与を受けたとして同六二年分の贈与税の申告をした。

以上の事実が認められ、証人早田晴次の証言中右認定に反する部分はにわかに信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、河野は、早田晴次に依頼されるままに、右委任状及び清算確認書に署名押印するなどしたにすぎず、右差額二〇〇万円についても早田晴次から贈与を受けたとして昭和六二年分の贈与税の申告をしたのであるから、右の事実をもって、河野が早田晴次を自己の代理人として本件四筆の土地を他に売却したものと認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

しかし、本件に提出された証拠によっては、早田晴次の本件四筆の土地の売却に原告が関与したと認めることも困難である。

従って、本件四筆の土地の売買の事実は、本件一〇筆の土地の実質的な所有権の帰属を認定する資料となるものとはいえない。

6  譲渡所得の帰属

(一) 被告は、原告が昭和五二年七月一日頃カワノ工業から本件一四筆の土地を代金合計一九〇七万六四五七円で買受けて、実質的な所有権を取得した旨主張する。

証人河野は、土地が終末処理場用地として公共のために役立ち、終末処理場用地が買収できれば原告の手柄にもなるし、終末処理場の建設に際しカワノ工業がコンクリートパイルの販売もできることから、カワノ工業が同年七月一日頃原告に対し本件一四筆の土地を代金合計一九〇七万六四五七円で売り渡したものである旨供述し、証拠(甲三二、甲四〇、四一、乙三六、乙五九、乙一〇六、乙一四五、乙一五〇、乙一五四)中にもこれに沿う記載がある。

しかし、カワノ工業が、本件一四筆の土地を取得した時からその当時までの間に、田中内閣の日本列島改造論等の影響により一般的に地価の上昇が著しく、本件一四筆の土地についてもかなりの価格の上昇が考えられるところ、市ないし公社に対する売却価格と取得代金、公租公課及び費用との差額が利益となり、三〇〇〇万円の特別控除もあることから、実質的にも相当の利益が見込まれるのであるから、取得代金、公租公課及び費用に取得代金に対する取得時からの利息を加算した代金で原告に売却したというのは甚だ不自然である。のみならず、右代金額は、カワノ工業が本件一四筆の土地の実質的な所有権を取得した際、河野が個人として支出した約九〇〇万円を含んでいないのであるから、カワノ工業は、実質的な取得代金と公租公課及び費用の合計額を下回る金額で原告に売却したことになり、不合理というほかはない。証人河野の右供述及び右証拠の記載は、これらの点に照らして、また前記4掲記の各証拠に照らしてにわかに信用することができない。

(二) 前記1ないし4認定の各事実によれば、カワノ工業は、市ないし公社に対し終末処理場用地として本件一四筆の土地(実際には終末処理場用地は本件一〇筆の土地のみであった。)を売却するについて、昭和五二年七月一日頃原告との間において前記土地売買契約書を作成したうえ、売却方法、売却時期、売却価格及び売却代金の保管等の決定を全て原告に一任し、原告に対し本件一四筆の土地の権利証を交付し、同年九月船倉基弘ら六名の名義で所有権移転登記がされた後も、本件一四筆の土地の権利証を原告に保管させたままであり、市ないし公社との売却交渉の経緯等について原告に詳しい報告を求めたことはなかったのであるから、カワノ工業は、原告に対し、市ないし公社に対し処理場用地として売却する目的で本件一四筆の土地の処分権限を与えたものと認められる。原告は、同年七月一日頃カワノ工業から本件一四筆の土地の権利証の交付を受け、同年九月船倉基弘ら六名の名義で所有権移転登記がされた後も、自らこれら名義人の権利証を保管したうえ、公社に対し本件一〇筆の土地を売却するまで、本件一〇筆の土地の維持管理を行い、本件一〇筆の土地を実質的に管理支配し、その間公租公課及び費用を支払ってきたものである。また、原告は、公社に対し本件一〇筆の土地を売却するについては、カワノ工業に諮ることなく、自己の自由な判断で売却方法、売却時期、売却価格、売却代金の使途・保管方法等を決定しており、カワノ工業に売買代金名義で送金するために自己の責任で金融機関から多額の金員を借入れ、名義貸を受けた船倉基弘らに対する謝礼、登記手続き等に要した費用、本件一四筆の土地の公租公課及びその他の費用を支出しているのであり、原告は、自己の計算と責任において公社に対し本件一〇筆の土地を売却したものと認められる。更に、原告は、名義貸を依頼する際、船倉基弘ら六名に対し自己が本件一四筆の土地を買受けるとの趣旨の説明をし、本件四筆の土地については、カワノ工業側の意図を超えて、市に対し未だ建設計画を策定していなかった第三次処理施設用地として買収することまでも要求し、その実現に向けた働きかけを行ったものである。これらの事実と右(一)に判断したところによれば、原告は、同年七月一日頃、市の処理場用地として市ないし公社に売却する目的をもって、市ないし公社から受領した売却代金をいったん自己が取得したうえその利益を適宜分配するとの趣旨のもとに、カワノ工業から実質的に本件一四筆の土地の譲渡を受け、その所有権を実質的に取得したものと推認するのが相当である。

原告は、本件一〇筆の土地はカワノ工業ないし河野が公社に対し売却したものであり、原告はカワノ工業の代理人ないし仲介人としての立場で市ないし公社との間の売却交渉及び売買契約の締結等を行ったものであって、原告が本件一〇筆の土地の所有権を実質的に取得したことはない旨主張するところ、原告本人も、本人尋問の際に右主張に沿う供述をし、証拠(甲三二、甲三四ないし三六、甲三八、甲四〇、乙一三〇ないし一三三、乙一四五、乙一四六、乙一五〇、乙一五四、乙一五六)中にもこれに沿う記載があるが、いずれも前記1ないし4認定の各事実に照らしてにわかに信用することができない。

また、前記4認定の事実によれば、河野は、同五四年五月六日原告と協議した際に、本件一〇筆の土地の売却代金につき原告が修正申告するのとカワノ工業ないし河野が修正申告するのとどちらが有利か、本件四筆の土地をカワノ工業ないし河野が保全する方法等について協議し、自己ないしカワノ工業でも本件一〇筆の土地の売却代金の税金問題について検討することとしたのであるが、本件一〇筆の土地の売却代金につきカワノ工業ないし河野が税金問題について検討したことは右認定を左右するものとはいえないし、本件四筆の土地をカワノ工業ないし河野が保全する方法等について協議したことも、カワノ工業が右の目的及び趣旨のもとに実質的に本件一四筆の土地を原告に譲渡したのであるから、公社に売却されなかった本件四筆の土地についてその保全方法等について検討することはむしろ当然であって、右認定を左右するものとはいえない。

(三) 以上認定判断したところによれば、原告は、昭和五三年五月一五日公社に対しその所有にかかる本件一〇筆の土地を代金合計七八六二万二〇〇〇円で売渡し、同月一九日右代金を受領したものであるから、本件一〇筆の土地の譲渡による所得は原告に帰属するものと認められる。

二  譲渡所得金額について

1  譲渡収入金額 七八六二万二〇〇〇円

右に認定判断したところによれば、譲渡収入金額は、被告主張のとおり、原告が公社との間の前記売買契約に基づき、昭和五三年五月一九日公社から日出美ら四名の名義で受領した本件一〇筆の土地の代金合計七八六二万二〇〇〇円である(内訳は別表4A番号1ないし4記載のとおりである。)。

2  取得費 九八八万〇一四二円

取得費は、原告が同五二年九月二六日カワノ工業に対し売買代金名義で送金した一九〇七万六四五七円のうち、本件一〇筆の土地の代金合計に対応する九八八万〇一四二円と認めるのが相当である(内訳は同表番号1ないし4記載の金額となる。)。

3  必要経費 六三万〇〇二七円

必要経費は、原告がカワノ工業に対し売買代金名義で送金した前記一九〇七万六四五七円の支払のため、早田晴次名義で大分県信用組合高田支店から借入れた二一〇〇万円にかかる支払利息のうち、本件一〇筆の土地の代金に対応する支払利息六三万〇〇二七円である(計算は別表4C記載のとおりである。)。

4  租税特別措置法の特別控除の有無等

前記一認定の事実と弁論の全趣旨によれば、被告主張のとおり、租税特別措置法の特別控除及び軽減税率の適用がないものと認められる。

5  譲渡所得の金額 六八一一万一八三一円

本件一〇筆の土地の譲渡所得の金額は、1の譲渡収入金額七八六二万二〇〇〇円から、2の取得費九八八万〇一四二円及び3の必要経費六三万〇〇二七円を控除した残額六八一一万一八三一円となる。

三  原告の所得税額

以上によれば、分離短期譲渡所得金額にかかる税額計算過程は別表5の認定欄記載のとおりであり、所得税額の計算過程は別表2の認定額欄記載のとおりとなる。

原告の納付すべき税額四四五四万七一〇〇円は、本件更正にかかる原告の納付すべき税額四四五四万四八〇〇円を上回るから、本件更正は適法である。

四  本件決定について

前記一認定の事実と弁論の全趣旨によれば、原告は、日出美ら四名の名義を用いて公社に本件一〇筆の土地を売渡したにもかかわらず、確定申告に当たり、自己が公社に本件一〇筆の土地を売渡したことを申告しなかったから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、これに基づき確定申告をしたものと認められる。

そして、原告の重加算税は、被告主張のとおり一三五一万二〇〇〇円となるから、本件決定は適法である。

(裁判長裁判官 丸山昌一 裁判官 村上亮二 裁判官 大﨑良信)

別表1 課税処分等の経緯

〈省略〉

別表2 所得税額の計算過程

〈省略〉

別表3

土地一覧表

〈省略〉

別表4 収入金額、取得費及び経費一覧表

A 収入金額及び取得費

〈省略〉

別表4 収入金額、取得費及び経費一覧表

B 経費

1 支払利息の総額

昭和52年9月28日 609,143円

同 53年1月25日 402,739円

同 53年6月5日 327,226円

合 計 1,339,108円

2 カワノ工業から取得した本件14筆の土地の代金に対応する額

〈省略〉

3 本件10筆の土地の代金に対応する額

〈省略〉

別表4 収入金額、取得費及び経費一覧表

C 経費

1 支払利息の総額

昭和52年9月28日 609,143円

同 53年1月25日 402,739円

同 53年6月5日 327,226円

合 計 1,339,108円

2 カワノ工業から取得した本件14筆の土地の代金に対応する額

〈省略〉

3 本件10筆の土地の代金に対応する額

〈省略〉

別表5 分離短期譲渡所得金額にかかる税額計算過程

〈省略〉

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